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Vol.242 経営者として「分社化したい」と思ったときのお話

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分社化のメリット

経営者であれば、
組織体制のことをいつも考えていると思いますが、
それなりの規模の会社であれば、
「分社化したい」
と感じる場面が少なからずあるのではないでしょうか?

M&Aで会社を増やしたり、新規事業で新しい会社を作る、
といったこともあると思いますが、
今回は既存にある組織を分解して2つ以上に分ける「分社化」について、
お伝えしたいと思います。

 

 

分社化を考える際には

分社化を考える背景にもいろいろな目的と
メリットがあると思います。

ただ、経営者としては、分社化のメリットのことだけではなく、
分社化によるデメリットの方も是非意識しておきたいところです。

 

ものごとには何事も裏表があり、
分社化についてもメリットとデメリットの両側面があるはずです。

分社化によって利益を得るためには、
分社化によるデメリットを上回るメリットがあることが前提になりますので、
デメリットについても具体的に検討をしてみていただきたいと思います。

 

 

分社化のデメリット

そこで今回は「分社化のデメリット」について
改めて考えるために、具体的に以下の6つの点を考えてみました。

————————————————-
①会社数の増加による維持コストの増加
②損益配分が税務的に不利な形に分かれてしまう可能性
③グループ会社間の恣意的な取引調整はできない
④従来不要だった取引の顕在化
⑤グループ内のキャッシュマネジメント
⑥グループ会社間の取引管理
————————————————-

この6点について、以下で1つ1つ補足をさせていただきたいと思います。

 

①会社数の増加による維持コストの増加

会社が増えると、仮に規模が小さいとしても
それなりの会社維持コストがかかるものです。

法人として必要な手続きも増えますし、
それに関連して専門家へ依頼する業務も増え、
支払う報酬も増えてしまいます。

また、法人として最低限支払う税金も生じます。

このように、1社であれば1社分のコストであったものが
複数社になれば、その会社数だけ法人維持コストが生じることについて、
最低限の覚悟が必要となります。

 

②損益配分が税務的に不利な形に分かれてしまう可能性

たとえば、2つの事業を行っている際に、
1つの事業を分社化するようなケースを考えてみたいと思います。

このような場合に、たとえば、
A事業を行う会社は黒字になり、
B事業は行う会社は赤字になる、
といったようなケースに陥ることはよくあることです。

 

A事業とB事業を1社で行っていれば、
それぞれの事業の黒字と赤字がネットされたうえで黒字になれば、
法人税等を支払うという感じになります。

一方で、2社に分かれている場合に、
それぞれの利益に対して法人税等を支払う必要があります。

 

たとえば、
・A事業の利益:100
・B事業の利益:▲100
といった場合を考えてみたいと思います。

 

この場合、1社であれば、
A事業とB事業の合計の利益が0になるため、
法人税等の支払いは発生しません

一方で、2社に分かれている場合には、
B事業を行う会社は赤字なので、法人税等は発生しませんが、
A事業を行う会社で100の利益に対して約30の法人税が発生します。

 

トータルで考えると、
分社化前の1社の場合には法人税等がかかっていなかったのに、
分社化して2社になった場合には法人税が30増えることになります。

 

③グループ会社間の恣意的な取引調整はできない

次に、グループ会社間の取引による損益調整についても
触れてみたいと思います。

上記②のような状況が生じた際に、
税額だけのことを考えると、グループ会社2社間で取引を発生させて、
損益を調整したいというニーズが出てくるかもしれません。

実際にそのようなお話をされる経営者がいらっしゃるのも
実情ではあります。

 

ただ、このような会社間の損益調整を目的とした
形式的な取引計上は、当然ですが認められていません。

仮に、恣意的にそのような取引を
グループ会社間で実施した場合には、
税務調査で否認され、ペナルティが追加でかかるリスクもあります。

グループ会社間の取引は、
税務調査でも注目される論点ですので

 

ちなみに、グループ会社間の取引が実際に存在し、
その取引に経済合理性があれば、
それ自体が否定されることはありません。

 

④従来不要だった取引の顕在化

次に、上記③と少し似たような話になるのですが、
別の視点でグループ会社間の取引についてあげてみたいと思います。

よく見聞きする例ですが、
分社化して2社に会社を分けた後も、
経理部等の管理部門はもともとの会社の方だけに存在し、
分社化して切り出した会社の経理業務等を実施している、
といった例です。

このこと自体が問題というわけではないのですが、
仮にこのような状況が生じる場合には、
きちんとグループ会社間で取引を顕在化させ、
お金を精算する必要がある点が注意点です。

 

たとえば、
ある会社でA事業とB事業を行っていて、
このうちB事業を新会社へ分社化したとします。

ただし、経理業務等の管理部門はもともとの会社の方にしかなく、
B事業を行う新会社側で実施すべき経理業務等は、
もともとの会社の人材が実施している、といったようなケースです。

 

分社化前の1社であったときには、その会社の経理人員が、
A事業に関する経理業務も、B事業に関する経理業務も、
当然のように実施しています。

一方で、2社に分かれた場合に、
A事業を行う会社の経理人員がB事業を行う会社の経理業務を行う場合には、
別会社への役務の提供となりますので、きちんとその役務提供に対して、
B事業を行う会社からA事業を行う会社へ対価を支払う必要が生じます。

つまり、
分社化せずに1つの会社だったら不要だった取引が、
分社化することで顕在化し、それに対して、
お金のやり取りが必要になるということです。

 

グループ外の他社との間であれば、
当然のように取引額を決めて役務提供が行われるのですが、
グループ会社の場合には、このあたりがあいまいなまま、
グループ会社間で無償で役務提供をしても、
誰も気にしなければこのまま進んでいくことは往々にしてあります。

 

仮に、このような取引について対価を支払わずに
グループ会社間で役務提供を実施していた場合には、
やはり税務調査において指摘をされ、
両者間の損益を操作したとみなされるリスクが高まります。

 

⑤グループ内のキャッシュマネジメント

そして、次に挙げたいのが、
グループ間のお金のやりとりです。

グループ会社すべてが順調にいって、
お金も問題なく回るといった状況になることは実は少ないものです。

採算の良い事業で稼いだお金で、
不採算の事業に投資をしているといったことは、
多くの会社で起きている状況かと思います。

 

1社のなかでは、このような状況が起きていても、
同じ会社なので、具体的なお金の貸し借りといった議論に
発展するケースは基本的にありません。

一方で、事業を分社化し、
採算の良い事業と、悪い事業が別々の会社になった場合には、
法人単位でお金の過不足が如実に表れてきます。

 

このあたりが見える化されることは、
分社化のメリットでもあるかもしれませんが、
お金の貸し借りを法人をまたいで実行していかないと、
不採算事業を行う側の法人は資金不足で倒産をしてしまいます。

結果として、黒字会社から赤字会社へ
お金が流れ続けるといったことが起こるのですが、
どんどん貸付が増えていくと、
今度は積みあがった貸付金をどうするのか、
といった別の議論が出てきます。

当然、利息もつけないといけませんので、
このあたりも論点になってきたりします。

 

また、貸付の回収可能性がなくなった場合にどうするか、
といったような場合においては、
法人税等の問題も関連してきたりして、
結構悩ましい問題も出てきたりするものです。

 

⑥グループ会社間の取引管理

これまで挙げた論点の結果として、
グループ会社間ではいろいろな取引が発生していくものです。

1つの会社であれば、あまり意識する必要がなかったことが、
分社化することで取引として顕在化することで、
両社側で、お互いの取引高や取引残高について管理しあうことが必要になります。

本来は両者間で取引の認識額が一致すべきなのですが、
グループ会社間の取引の場合には、いろいろとルーズになりがちで、
気づけば、グループ会社同士で認識額に
大きな差異が生じたりすることもしばしばあります。

 

そして、このような差異の調査をしたり、
お互いのすり合わせをするだけでも、
かなりの時間を要したりしますので、
それなりに管理コストがかかるといえます。

 

 

それでも分社化をしたいと思えるかどうか?

ということで、
今回は分社化のデメリットについて、
考えてみました。

とはいえ、分社化は止めましょう、
とお伝えしたわけではありません。

分社化を考える背景には、
それによって達成したい目的があると思いますので、
当然、目的達成に必要であれば分社化は良い方法だと思います。

但し、分社化によるデメリットもそれなりにあるので、
良い面ばかりでなく、悪い面にも目を向けていただき、
経営者として最終的に合理的な決断をしていただきたい、
と思っています。

 

ちなみに、私個人がこれまで相談された経験をもとに、
最後に書いて終わりにしたいと思います。

 

私自身は、分社化について相談を受けることもありますし、
そのような場面をサポートすることも当然あります。

そのなかで、私は立場上、
上記に挙げたような「分社化のデメリット」をあえてお伝えして、
反応を確認させていただいたりします。

分社化することで、後で後悔したり、
逆にぐちゃぐちゃになったり、望まない方向になるリスクを
できる限り事前につぶしておいてあげたいと思いますので。

 

そのような際の経営者の反応ですが、

①分社化の必要性をもう一度考えてみたいと回答される場合
②分社化の考えが変わらない場合

の2つのパターンを考えた際に、
感覚的には「①:②=7:3」くらいな感じがします。

 

どの段階で私に相談をされるかにもよるので、
一般論というより、あくまで私の感覚となります。

ただ、上記のような分社化のデメリットをお伝えしても、
「②分社化の考えが変わらない場合」は
どのようなケースかを改めて思い返してみたところ、
だいたい共通するのは、
——————————————–
人のマネジメント的な問題を解決したい
——————————————–
という目的をもって分社化を考えられている場合です。

 

たとえば、
赤字の新規事業を同じ会社でやり続けるが、
同じ会社でやるにはマネジメント的に限界が生じてしまうため、
既存事業の社員の目に見えない外部に移したい、
といったようなケースとかでしょうか。

 

人のマネジメントと組織の形は密接に関連します。

人はどうしても同じ枠のなかや、見える範囲のことについては、
いろいろと比較をしたり、気にしたりするものです。

 

経営者と社員では見えている範囲や、
見えている時間軸が異なりますので、
社員に対して、
「この事業は今は赤字だけど、将来的には…」
といったようなことを伝えても、
なかなか納得感を感じてもらえないことも多いのではないでしょうか。

このような経営者と社員の立場上の違いから生じるズレを解決していこうとした際に、
組織変更が検討される場合も多いと思いますが、
この組織変更も1社のなかでは限界に来ることもあります。

そのような際に、
「分社化」
という形で、まったく別の法人で、
目に入らない形を作る形の組織変更に行き着くという感じです。

 

ということで、
人のマネジメント面で必要に迫られている経営者の場合、
分社化によるデメリットをお伝えしても、
デメリットを超えて解決しなければいけない課題のほうが大きいため、
分社化の思いは基本的に揺るがないという印象です。

 

以上、今回は分社化を検討する際に、
考えておいていただきたいデメリットについてのお話でした。

 

★★★★★★★
分社化の
メリットとデメリット
★★★★★★★

 

 

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