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今週の「減らす」決断(2015年10月26日~10月30日)

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※平成27年10月30日に株式会社壱番屋より適時開示されている「ハウス食品グループ本社株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」をもとに情報を整理しています。 

はじめに

今週は「壱番屋」「ハウス食品」の事例に特化して、
紹介させていただきます。

昨日(2015年10月31日)の
日本経済新聞でも一面に掲載をされていました。

これまでご紹介してきた「減らす」事例としては、
親会社が子会社を清算・解散したり、合併したり、
または子会社株式を売却したり、
といった事例が多かったと思います。

今回の「壱番屋」の事例は、
これまでのご紹介した事例と少し傾向が異なり、
「オーナー創業者が『自社株式』を『減らす(売却する)』」
という事例になります。

オーナー社長の立場としては、
決断プロセス等、参考になる面もあるかと思いますし、
またグループ経営における事業提携・資本提携という意味でも
大いに参考になるのではないでしょうか。

事例)株式会社 壱番屋

概要

●平成27年10月30日開催の取締役会において、
ハウス食品グループ本社株式会社(公開買付者)による
普通株式(壱番屋株式)公開買付けに関して、
賛同の意見を表明することを決議。

●株式公開買付けは、買付予定数の上限が設定された
いわゆる部分買付けであり、上場は維持される方針。

ハウス食品グループの背景

●ハウス食品グループは、大正2年11月11日に創業し、
昭和48年4月に東京・大阪・名古屋各証券取引所市場第一部に上場し、
平成25年10月1日に持株会社に移行

●ハウス食品グループは、
「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくる
グッドパートナーをめざします。」グループ理念とし、
以下の事業を展開している。
・香辛・調味加工食品の製造・販売及び付随する事業
・健康食品の製造・販売及び付随する事業
・食材・農産物加工品等の輸出入販売
・総菜の製造販売
・運送・倉庫業
・食品の安全・衛生に関する分析
・野菜農産物の生産・販売
・海外における食品の製造・販売・レストラン経営及び付随する事業

●カレー事業を含む香辛・調味加工食品事業においては、
「食の外部化」等の事業を取り巻く環境変化に対し、
「より健康、 より上質、より簡便、より適量」にフォーカスした
製品・サービスの提供を通じて、
「既存領域の強化」及び「新規領域の展開」に取り組んでいる。

●また、カレー事業においては、
ルウカレー製品を中心に新しい食べ方提案による需要喚起等、
カレーメニュー価値向上に取り組んでいる。

海外事業においては、
重点3エリア(米国・中国・東南アジア)において、
ハウス食品グループが育んできた技術による食のおいしさを
世界のお客様にお届けすることで、
事業拡大のスピードアップと収益力の強化に取り組んでいる。

●海外におけるレストラン事業は、
米国、中国、台湾、韓国で展開しており、
米国では独自ブランドによるカレーレストラン事業を展開し、
他三カ国では「壱番屋」とフランチャイズ契約を締結して
「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開している。

●現在、展開中の各国における
No.1カレーレストランチェーンを目指し、
経営基盤の整備、業態開発、
継続的な新規出店や店舗品質向上に努めている。

壱番屋の背景

●壱番屋は平成12年2月に日本証券業協会に株式を店頭登録し、
平成16年3月に東京・名古屋各証券取引所市場第二部に上場、
平成17年5月に東京・名古屋各証券取引所市場第一部に上場。

●壱番屋グループは、国内及び海外にて
「カレーハウスCoCo壱番屋」を中心に展開し、
以下の事業を営んでいる。
・直営及びフランチャイズ方式による店舗事業、
・店舗への食材・店舗設備販売事業、
・それらに付随する事業

●飲食事業の運営・開発、店舗へのバックアップ体制、
それらを支える人材育成において優れたノウハウを有している。

●壱番屋グループは、
「経営を通じ人々に感動を与え続け、
地域・社会に必要とされる存在となること」ミッションとして掲げ、
「会社にかかわるすべての人々と幸福感を共有すること」経営目的としている。

●事業展開においては、
「国内CoCo壱番屋」「海外CoCo壱番屋」「国内他業態」を3本の柱とし、
「継続的な繁栄実現」を第一義としている。

●企業の社会的責任を踏まえた質的成長を必要条件、
企業規模等の量的成長を十分条件と捉え、
誠実で活力のある外食企業グループを造り上げることを目指し、
以下のテーマに取り組んでいる。
・「国内既存店の強化」
・「海外既存エリアの出店拡大、新規エリアへの進出」
・「新業態の育成」

●食品業界においては、
消費の二極化が進む中、
円安や新興国需要の増加等から
原材料価格が高い水準で推移し、
依然厳しい状況が続いている。

公開買い付け(≒株式譲渡)の目的

●カレーメニューを取り巻く環境についても、
成熟市場において市場規模拡大が見込めない中、
同業他社との競争に加え、
商品カテゴリーを超えた分野にも競争が拡大し、
ハウス食品グループ及び壱番屋グループを
取り巻く環境は厳しさを増している。

●一方、中国、 東南アジアを中心とした
海外市場は成長著しい状況にあり、
両社にとって如何にスピードある事業拡大を
進めるかが経営課題となっている。

●ハウス食品グループは、
壱番屋グループとの一層の関係強化を図ることを目的として、
平成10年10月より段階的に壱番屋の株式を取得し(19.50%)、
壱番屋を持分法適用関連会社とした。

●上記のような環境の中、
平成27年7月以降、
両社間で連携のあり方について協議・検討を開始した。

ハウス食品グループは、
・国内において既存事業の競争力向上
・新規分野への取り組み
・海外事業のスピードある事業拡大の一層強化
・経営効率や生産性の更なる向上
が急務と考えた。

壱番屋グループとしても、
・国内既存店舗の魅力の向上
・海外事業の展開エリア拡大
・新規事業の育成の更なる強化
が重要と考えた。

●現在の「持分法適用関連会社」による資本関係を超えて、
ハウス食品グループが壱番屋を連結子会社とすることにより、
より強固な資本関係のもと「同一グループ」として協業し、
一層の「事業シナジー」を創出することが
両社の企業価値向上の観点から
極めて有効であるとの認識で一致。

●ハウス食品グループは壱番屋グループに対して
原材料供給、海外事業での協働をはじめ、
生産効率、品質向上における連携を図ってきた。

●今回の公開買付けにより、
壱番屋がハウス食品グループの連結子会社となることは、
グループとしての「バリューチェーン上の事業領域」を拡大することにより
現状レベルでの協働を超えた更なる連携効果が見込める等の
事業シナジーを創出できるものと考えている。

グループ企業価値向上の具体的施策&事業シナジー

①お客様満足の向上及びカレーメニュー価値の向上
カレー事業に関する両社グループのノウハウを
活用した「メニュー開発及び販促展開」を実施し、
お客様満足とメニュー価値を向上させることにより
国内需要の拡大を図る。

②品質保証力の強化
ハウス食品グループの強みと
壱番屋グループの強みを活かして、
調達・ 生産から店舗販売に至る
「安全・安心への取り組みの強化」を図る。

●ハウス食品グループの強み
・品質保証体制
・お客様情報の集中管理システム
・食品の安全・衛生に関する分析機能会社の保有等

●壱番屋グループの強み
・品質保証体制
・お客様情報の集中管理システム
・店舗巡回による品質管理体制等

③調達・生産における協働
両社グループともにカレーを提供しており、
使用する原材料には類似性があるため、
両社グループの調達機能を連携させることによる「規模のメリット」を活かし、
更に品質の高い原材料をより安定的かつ低コストで
調達できるようにしていく等、「調達力の強化」を図る。

また、両社グループが協働し、
全体の生産性向上の取り組みを行い、
工場操業度向上及び製造工程の効率化により
「生産コスト低減」を目指す。

④海外事業推進の強化
現状、展開エリアにより
ハウス食品グループが中心となって事業運営しているエリアと、
壱番屋グループが主導で運営し
ハウス食品グループが原材料供給等のサポートをしているエリアがある。

今後は、海外事業展開のスピードをより一層高めるため、
両社の連携を密にする体制を構築し、
既存エリアでの出店拡大及び
新規エリア進出において協働することで、
「日本のカレー文化を世界に伝えていくこと」
更に推し進めていく。

⑤新規事業創出における協働
両社の経営資源・ノウハウである
人材・技術・生産設備・情報等を活用することにより
お客様の需要に応える「新規事業の創出・育成」を実現していく。

意思決定プロセス

●平成27年7月より、ハウス食品グループとの間で、
両社事業の更なる拡大と両社の企業価値向上に向けた協議を開始し、
複数回にわたり協議を重ねてきた。

●その中で、壱番屋にとってハウス食品グループは、
主力事業である店舗事業の運営に欠かせない
主要な原材料であるカレースパイスの供給元であり、
当社工場における生産技術向上への協力、
食材の安全性確保のための分析等、
幅広い分野ですでに協働関係にあることから、
これまでの友好関係をさらに深めていくことによって
得られるメリットは大きいという結論に至った。

●また、同じカレーというメニューを扱っていることから、
食材等の調達力の強化を図れるほか、
メニュー開発に関するノウハウを共有することで、
より付加価値の高いメニューを提供できるようになり、
お客様の満足度向上が期待できるほか、
各種販促施策等を共同で行うこと等により、
より多くのお客様に多面的に訴求できる等、
事業拡大にとって様々な「シナジー効果」が期待できると判断した。

主要株主の合意

●壱番屋の主要株主である、
有限会社ベストライフ(創業家宗次家の資産管理会社)、
宗次德二氏及び宗次直美氏は、
その所有する当社株式のすべてについて、
本公開買付けに応募する旨を合意している。
(所有株式数合計 3,698,000 株、所有割合合計 23.17%)

レビュー

今週は「壱番屋」「ハウス食品」の特集です。

カレーといえば、
この2社は有名ですね。

カレー好きの私としては、
子どもの頃は、
よくハウス食品のカレーを食べていましたし、
大人になってから知った「ココイチ」は、
今でもよく利用します。

ちょうど今、
壱番屋創業者の宗次氏の書籍を
読んでいたこともあり、
今回の開示が目につきました。

 

今回は、
「オーナー創業者が『自社株式』を『減らす(売却する)』」
という事例になります。

 

宗次氏が創業した「壱番屋」は、
今では株式上場まで果たし、
かつ、この記事を書いている時点では、
グループ売上高は約900億円、
店舗数は1,400店舗を超えています。
(うち海外が約10%を占める)
※同社ホームページより

壱番屋は、
まだまだ成長過程にある会社であり、
やりたいことも多い会社だと思いますが、
あえて、ハウス食品グループの
「子会社」
となる決断をしたようです。

 

ハウス食品グループとは、
これまでも資本関係があり、
壱番屋の経営においても
ハウス食品の影響力はあったはずです。

但し、今回の株式譲渡で
株式の過半数をハウス食品グループが
保有することとなるため、
基本的には、
親会社であるハウス食品グループが、
「ハウス‐CoCo壱番屋グループ」
の全体指揮をとっていくことになると思います。

 

創業オーナーである宗次氏は、
壱番屋の代表取締役の役職は、
数年前に退任をされていますが、
大株主としては
会社に関与をされ続けていました。

ただ、今回の株式譲渡で、
宗次氏が持株をすべて
ハウス食品グループに売却することになるため、
形式的には完全に
壱番屋との関係が無くなることになります。
(実態はわかりませんが)

 

自らが作り、育てた会社の
株式を手放すというのは、
とても苦しい決断だったのではないかと
推測します。

一方で、
会社としての未来を考えた場合には、
今回の決断がベストということだったのだと思います。

 

両者の有価証券報告書で
ここ数年の業績も一応確認してみました。

すると、
両社ともグループ売上高は
少しずつ増加していますが、
グループ利益の方は、
それほど伸びていませんでした。

頭打ちとなっている国内市場と
今後重要性が増していく海外市場。

お互いがこれまで以上に連携をして
シナジーを生んでいかなければ、
国内・海外市場で生き残っていくのは容易ではない、
という判断があったのだと思われます。

とても魅力的な会社同士が
より発展的なグループ経営に取り組むということで、
個人的にも今後の展開に注目していきたいと思います。

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