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Vol.217 経営者としての管理部門との接し方

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他社事例は使えない?

「グループ経営管理の良い事例はありますか?」
「連結決算の良いフォーマットはありますか?」

このような質問を受けることはよくあります。

このようなときに、
他社での事例や経験をそのまま横展開できれば良いのですが、
そう簡単にはいかないものです。

 

そもそも他社における事例の成功・失敗は、
他社の前提条件・企業風土・人材の状況等と切り離せないことなので、
なかなか他の会社に横展開するのは難しいことです。

さらに事例を伝えるにしても、
間違った理解につながることを避けるために、
前提となる他社の細かな情報を伝えたうえでなければ難しいのですが、
守秘義務的なところもあり、伝えるのが難しい、
という側面もあります。

 

情報化社会の中で「あるべき論」は
ほんとうにすぐに手に入る時代になりました。

いろいろな事例について
お話を聞いたり、本で読んだりしても、
突き詰めていくと、本質はみな似たような内容に思えてきます。

多くの経営者は、
成長していけばいくほど似たような悩みを抱え、
同じような「あるべきカタチ」を発言するようになっていきます。

 

ただ、
その「あるべきカタチ」を実現するための「方法(HOW)」は、
いろいろあるのだと思います。

方法論についても、
いろいろな成功例はあふれていますが、
これが自社に合った方法であるかを判断するのは容易ではありません。

 

他社例は、イメージもわきやすいですし、
なんとなくヒントになるところはあると思いますが、
そのまま適用することはほぼ不可能であるため、
結局、壁にぶつかってしまうといった感じではないでしょうか。

 

自社の状況に合わせて考える

冒頭の質問や依頼をされたとき、
私も、とりあえず
「他社で活用したあのフォーマットをベースにできるのでは?」
と思い、引っ張り出してアレンジをしていきます。

 

ただ、
会社ごとの状況にあわせてアレンジをしているうちに、
原型はほぼなくなり、90%以上の内容は変わってしまいます。

それどころか、
「やっぱり、一から作りなおすしかないな」
といった感じで、
結局、何もないところから、
各社の状況を考えて作り始めることが多い気がします。

 

私も、いろいろと経験を積むことで、
グループ経営に必要なツールやあるべきカタチといった
理想形についてはすぐに思い浮かぶようになったのですが、
それを実現するための「方法(HOW)」については、
いつも試行錯誤になってしまいます。

ただ、そのなかで
自分の中でノウハウができてきていると感じる瞬間があるのは、
とりあえず「方法(HOW)」をいくつか考え、
提案ができるところなのではないかと思うようになりました。

 

この「方法(HOW)」を試行錯誤する回数が多いことで、
新しいクライアントや新しい課題に直面した際に、
試行錯誤しながらも、とりあえずは提案まで持っていける、
というは大事な要素な気がしています。

 

提案する「方法(HOW)」が正しいものかどうかは正直分かりませんし、
受け入れられるかは、常に不安でもあります。

ただ結局は、
やってみないとわからないことがほとんどなので、
その出発点として、まず「方法(HOW)」を提案できるかどうか、
というのは大事な要素だと思います。

 

提案する勇気

私の場合には、
このような試行錯誤と提案は主業務の1つとして、
慣れてきた感じはあります。
(もともとは得意ではなかったかもしれませんが)

 

一方で、
多くの会社の管理部門系の方々と接していて感じるのは、
問題解決のための「方法(HOW)」を考え、社内に提案していくことに
かなり苦しんでいることが多いように思います。

とても優秀であったり、努力されている方でも、
社内の今までのやり方を変えるような方法や新しい取り組みを
経営者に提案したり、部下に説明して実行してもらうのは、
とてもハードルが高く、勇気がいることなのだと思います。

 

経営者が、
目指したいゴールのイメージを伝え、指示をしても、
なかなか管理部門の現場が動いてくれない、
このように感じられる機会は多いのではないでしょうか。

とくに会社が大きくなっていけばいくほど、
リスクに対して敏感になる傾向があるため、
経営者としても、このようなジレンマは大きくなるかもしれません。

 

私が専門分野にしている「グループ経営管理」の領域においても、
最近は経営に役立つような機能を求められる機会が
本当に増えてきた印象があります。

いわゆる「攻め」のグループ経営管理といってもよいでしょうか。

 

但し、
「攻め」のグループ経営管理を要求される現場としては、
頭でわかっていても、実行に移すのが難しいものです。

やはり、従来通り「守り」も疎かにできませんし、
管理部門はコスト削減という命題も常につきまとってきます。

 

このような「守り」の立場として失敗できないプレッシャーのもと、
「攻め」を意識した業務にまで幅を広げていくのは
管理部門にとってはとてもハードルが高いということでしょう。

 

結局、行動の前の「提案する勇気」をもつことすら
難しいという状況をよく見かけます。

 

管理部門への感謝?

経営者としては、
コストセンターである管理部門には、
・できるだけコストを削減しながら
・経営のための「守り」は強くしつつ
・経営に役立つ「攻め」の機能ももってもらいたい
というニーズは当然強いと思います。

これから会社が生き残っていくためには、
このような役割を経営管理部門が担える存在になっていくことは必須であり、
そのための努力をしていく必要があるのは間違いありません。

 

ただ、経営者としても、
「攻め」の経営管理部門を構築していくためには、
管理部門の「特性」も理解したうえで、
指示をしていく必要もあるのではないかとも感じています。

 

管理部門は「守り」を主業務にしてきたこともあり、
どうしても失敗するリスクに敏感になりがちです。

サッカーのゴールキーパーのように
ファインセーブはあまり目立ちづらく、
逆に、失敗はとても目立ちやすい特性があるのが、
管理部門の特性だと思います。

 

このような管理部門が、
勇気をもって提案してきたことをすぐに却下したり、
すぐに結果を求めすぎたりすると、
管理部門としては「提案する勇気」も持てなくなってしまう気がします。

管理部門の特性を理解したうえで、
致命傷にならない失敗なら許容する姿勢を前面に出して
経営者が接してあげることができれば、
「守り」の業務の方に慣れた管理部門も、
徐々に「攻め」のための提案をする勇気が持てたり、
「提案することの面白さ」を感じたりしていけるのではないか、
と思っています。

 

積極的になれない管理部門の側に
問題があるように見受けられるケースも当然ありますが、
経営者としてはその気持ちをぐっと抑えて

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「守り」を固めてくれていることへの感謝
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を忘れずに管理部門と接してあげられれば
状況は変わってくるような気がしています。
「守り」続けるのも結構大変なものですので。

 

そのような「守りへの感謝の思い」があれば、
管理部門が勇気を出して「攻め」の提案をしてくれたことのありがたさも
今まで以上に感じられるのではないかと思いますし、
「攻め」の経営に役立つ経営管理部門に
徐々に進化していってくれるのではないかと思うのです。

 

経営者が、管理部門に対して、
「それ(「守り」を固めること)が仕事でしょ」
「管理部門の仕事なんて誰でもできる業務でしょ」
という姿勢ばかりでは、
管理部門の現場は、結構冷めてしまうものですので要注意です。

 

★★★★★★★
「守り」を固めてくれることへの
感謝を忘れずに
★★★★★★★

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