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Vol.215 グループ内取引の経済合理性とは?

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グループ内取引の妥当性とは?

グループ経営の現場では、
必ずと言ってよいほど議論になるテーマが、
「グループ内取引の金額の妥当性」
ではないでしょうか。

「この金額では高すぎる(低すぎる)」
「寄付金扱いになるのでは?」

 

———————————
グループ内取引の経済合理性
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これはメジャーな論点ですし、
私も会計領域を専門にしているため、
ついつい「その説明では厳しいのでは…」と
感じる場面も少なくありません。

 

ただ一方で、
経営者や会社の方の説明を聞いていると、
「確かに、その考え方もわかるなぁ」
「経営の立場で考えると、経済合理性はあるのでは…」
と思わされることも少なくありません。

 

当然、主目的が「租税回避」的なものと
明らかに思えるような場合には、
税務的な視点での主張はハードルが高くなると思います。

ただ、きちんとした節税は、
大事な経営戦略の1つと言えます。

 

このあたりの境界線は難しいところです。

 

グループ経営は税金を多く払いすぎている?

グループ経営のなかで
グループ企業価値を最大化していくためには、
グループ全体の税金をきちんとコントロールしていくことも、
重要な財務戦略と言えるでしょう。

 

決して
「税金を少なくした方が良い」
と主張したいわけではありません。

きちんとグループ全体最適になるように
グループ全体の税金をコントロールすることは、
経営者が考えるべきグループ経営戦略の1つである、
という思いです。

 

というのも、

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グループ経営の現場の多くでは、
グループ全体としての税金負担率が
高くなっていることが多い
———————————-

からです。

これはグループ経営の難しさと、
税制ルールによるところだと思います。

 

そのため、
グループ全体の税金を必要以上に減らすというよりは、
多く払いすぎているグループ全体としての税金を、
標準の水準に戻したいというニーズに近い
と言えるのではないでしょうか。

 

たとえば、
グループ会社が5社あった場合に、
全てが黒字で税金を十分に支払っているケースは稀で、
このうち2~3社程度は、
損益が不安定であったり、赤字が続いている、
といったケースが圧倒的に多い気がします。

そうした場合に、
あくまで仮の話ではありますが、
この5社の事業が1つの会社で経営されている場合と比べて、
どうしてもグループ全体で見た税額は大きくなりがちです。

 

1社ですべての事業を行っている場合には、
採算の悪い事業と採算の良い事業の損益が自然と相殺されるため、
税額もその分少なくなります。

 

一方で、5社に分社している場合には、
それぞれの会社で損益計算・税金計算されます。

そのため、
赤字の会社は基本的には
税額は0円より低くならない(≒戻ってこない)ことから、
グループ全体でみると税額負担は大きくなります。

 

このような問題は、
連結納税制度を活用したりすることで、
ある程度は解消できるとしても、
この税度を導入するもの結構ハードルが高いのが実情です。

 

そう考えると、
グループ経営者が、
グループ全体での税額を最適化したいという前提で、
いろいろとグループ内取引を考えるのは、
自然な流れだと思います。

大前提として、
もともと税金を多く払いすぎている場合が多いからです。

 

標準税率より税額を下げたいという意味での租税回避とは
少し次元が違う気がしています。

税率が異なる海外子会社との取引となると、
話は変わってはきますが。

 

税制の扱いは…

とはいえ、
グループ会社内の意思決定をコントロールしやすい
グループ経営において何でもありにすると、
やはり公平性という意味では支障がでることから、
税制上は、基本的には、

———————————————–
グループ会社であっても
個々の法人を独立した法人とみなして、
グループ内取引に経済合理性を求める
———————————————–

というスタンスに立っています。

 

この「経済合理性」としては、

———————————————–
資本関係等のない第三者間の場合であったら
どのような条件でどのような意思決定が行われるか
———————————————–

というスタンスで判断するものです。

 

この「経済合理性」というのが、
とても難しいところです。

 

そもそも論ではありますが、
グループ各社が別会社であるとしても、
実質的なオーナーや役員が同じであるケースは多いものです。

そうした場合には、
オーナー自身にとって最適なカタチになるように、
グループ全体をデザインするのは、
別に普通の考えだと思いますし、
本来、否定されるべきことではないと思います。

 

グループオーナーにとっての最適なカタチは、
グループ企業価値が最大化されている状態とも言えるため、
グループ全体の税金を最適水準にしようとする行為も、
グループ経営の現場においては自然な方向と考えられます。

 

繰り返しになりますが、
前提として、グループ経営の場合には、
通常より多くの税金を支払っているケースが多く、
それを適正水準に戻すという発想です。

そのような前提で、
グループ全体として最適になるように
グループ内取引をデザインして、条件を決めていくことは、
経済合理性があることだと考えてもよいのではないでしょうか。

 

ちなみに、私個人としては、
行き過ぎた節税等はあまり興味が薄いため、
この点について強く強調したいわけではありませんが…、
ただ、グループオーナーの気持ちもすごく理解ができますし、
また、グループ全体として最適になるようなデザインを考えることは、
経済合理性に従った行為であるという考え自体は、
否定しづらいという思いがあります。

 

そもそも「第三者」同士でない関係のなかで
グループ企業価値の最大化を純粋に目指すにあたって、
「第三者間取引」と比較しようとするのが難しい話ですし、
あらゆる背景等を考えた場合に、
比較対象取引もないことが多いのも実情ではないでしょうか。

グループ経営の現場の議論に同席して、
経営側の立場になって考えれば考えるほど、
グループ内取引でグループ全体の損益バランスを図ることが
そこまで悪いことなのだろうか、
と自問自答してしまうケースも多いものです。

 

決して、租税回避を推奨したい思いはありません。

 

ただ純粋に公平な課税のことを考えた場合に、
グループ経営の場合には、課税ルールの壁があり、
税金を多く支払いすぎてしまう傾向にあるという事実からくる思いです。

 

主張をするためには

いろいろと書いてきましたが、
あまり個人的な思いを書き続けても仕方がありません。

いろいろな背景はあれど、
税制のルールはルールとして決まっています。

この税制のルール自体も、
課税の公平性を考えたうえで作られているものだと思いますので、
この趣旨を無視するわけにもいきません。

 

一方で、先に書いたように
グループ経営者・オーナー側の考え方についても
経済合理性があると思っています。

きちんと主張できるべきところは
主張できるはずです。

 

ただ、多くのケースでは、
グループ内取引における形式的な側面が
ルーズになっているのも事実です。

たとえば、
第三者間との取引と比べて、
契約書が無かったり、取引条件があいまいだったり、
といった感じのことです。

 

やはり主張を自信もって通していくには、
最低限、形式的な側面は整備しておきたいところです。

 

ということで、
今回は長くなってきたので、このあたりで。

 

次回にはなりますが、1つの判例をもとに、
グループ内取引(例として経営指導料)において、
整備しておきたい形式面を整理してみたいと思っています。

 

★★★★★★★
グループ内取引における
経済合理性とは?
★★★★★★★

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