記事一覧

【事例】株式会社イーエムシステムズ

Pocket

※平成27年7月9日に株式会社イーエムシステムズより適時開示されている「会社分割による持株会社体制への移行の延期に関するお知らせ」をもとに情報を整理しています。

内容

会社分割による持株会社体制への移行の延期

開示概要

●平成27年1月14日開催の取締役会において持株会社体制への移行を決議した。

●持株会社体制へ移行する目的としては、以下を掲げていた。
・グループ全体の経営を行う統括会社として新たなコーポレートガバナンス体制を作る
・環境変化に対応した機動的かつダイナミックな経営判断により経営の機動性を向上させる
効果的な経営資源の調達および配分を行うことでグループ経営効率を向上させる
・事業の持続的成長と競争力の強化する

●しかしながら、
・各事業会社に対する重複作業の増加
・事業会社間での相互取引における処理の複雑化
・グループ全体を通した内部統制能力の弱体化
が懸念されるようになった。

●その結果、経営の求心力を損なわない現在の形態のまま
企業グループの統制活動を効果的に行う体制の構築こそ
優先すべき取り組みであるとの考えに至った。

●会社分割による持株会社体制への移行を実施時期未定として延期を決定

●今後は、当社が迅速な経営判断、意思決定を行うことで
当社グループにおける経営の求心力を高めるため、
平成27年10月1日付で代表取締役会長兼CEOおよび取締役社長兼COOを
新たに選定し、グループコーポレートガバナンスの一層の強化に努める。

●更に、当社グループ内で事業の効率化を進めていくとともに、
事業毎に収益を見極めたうえで適切な経営資源を調達および配分し
当社事業の拡大を図るため、
より効果的な手法を実施すべく検討を進めていく。

 

Review

今回の事例は上場会社としては
珍しい部類になるかもしれません。

今年の1月にホールディングス移行を決定し、
半年後に移行延期を決定した事例です。

未上場会社であれば、
社長の一存で、
決定が変わることは比較的多くあります。

一方で、
上場会社の場合には、
外部にも正式に開示をした後であれば、
よほどのことが無い限り、
決断したことを変えることは難しいものです。

それでも、
イーエムシステムズは、
一度決めたホールディングス移行の決断を
撤回しました。

ホールディングス移行の決定と延期については、
社内でも、いろいろと議論をされたことが
容易に推察できます。

決めたことを変えることに対する
批判もあるかもしれません。

但し、
私としては、
「勇気ある中止(延期)」
だと感じました。

上場会社が、
いったん決めて開示したことを
白紙に戻すのは、
とても勇気がいることです。

1回決めたことについて、
それが最善でないことが後々に判明しても、
「今さら変えられない」
ということで、
ダラダラと続けている会社が多いものです。

但し、
このような事なかれ主義は、
経営を間違った方向に導いてしまいます。

やはり、
ホールディングス化が適切な判断ではない、
とわかったのであれば、
やはり白紙に戻すべきだと思います。

グループ組織の形を変えてしまうと、
なかなか後戻りがしづらくなりますので。

ちなみに、
イーエムシステムズでは、
ホールディングス移行の目的と、
ホールディングス移行を延期した理由を
以下のように開示しています。

<ホールディングス化の目的>
・新たなコーポレートガバナンス体制を作る
・機動的かつダイナミックな経営判断による経営の機動性の向上
・効果的な経営資源の調達および配分による経営効率の向上

<ホールディングス化中止の理由>
・各事業会社に対する重複作業の増加
・事業会社間での相互取引における処理の複雑化
・グループ全体を通した内部統制能力の弱体化

ホールディングス化の目的については、
いわゆる「一般的な事例」といってもよいでしょう。

私が注目したいのは、
ホールディングス化を中止した理由の方です。

ここでのキーワードは、
・重複作業の増加
・グループ内取引処理の複雑化
です。

私も再三お伝えしていますが、
グループ会社を増やすということは、
重複作業が発生し、
管理コストも自然と増えるのです。

そのため、
グループ会社を増やすことによるデメリットを
補って余りあるほどのメリットがなければ、
グループ会社を増やす意味が無いのです。

このことに、きちんと向き合って、
決断をし直した勇気は
良い経営判断だと思います。

ここが不透明な状態のまま
ホールディングス化しても
逆効果になるだけですので。

そして、
今回の開示の最後には、
以下のような文章で締めくくられていました。

「当社グループ内で事業の効率化を進めていくとともに、
事業毎に収益を見極めたうえで適切な経営資源を調達および配分し
当社事業の拡大を図るため、
より効果的な手法を実施すべく検討を進めてまいります。
詳細につきましては、決定次第別途お知らせいたします。」

是非、ホールディングス化ではない
「効果的な手法」の解を
見つけていただきたいと思っています。

個人的には、
今後も注意してみていきたい会社になりました。

関連記事