海外子会社
グループ経営といっても、
国内だけのグループ経営か、それとも、
海外子会社まで含めたグループ経営かで、
その経営の難しさは大きく異なります。
海外子会社を保有されている経営者にとっては、
習慣や文化の違いや言語上の問題もあり、
海外子会社とのコミュニケーションが難しいことは
実感されているのではないでしょうか。
海外子会社管理には
いろいろなテーマがあると思いますが、
遠く離れた現場のことをきちんと把握するために
「会計数値」を上手く活用することは、
重要な視点なのではないかと思います。
会計数値には、
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数値:客観的
会計:ルールがある
———————–
という特長があり、
グループ内の目線合わせには、
有効だからです。
とはいえ、やはり「海外」の場合には、
会計の「ルール」が異なる部分があったり、
数値の「見方(目線)」に異なった特徴があったりして、
理屈で考えるほど「会計数値」の活用も
容易ではないのも事実です。
このような状況を改善する意味もあり、
会計の「ルール」を全世界で統一していこう
というトレンドが、ここ数年加速しています。
上場会社ではよく論点にもなる
「IFRS(≒国際会計基準)」
です。
上場会社を中心に導入が加速してきています。
また、同時に税務の方でも
グローバルで足並みをそろえていこうとするトレンドが加速していて、
こちらの方の代表格は
「BEPS」
になると思います。
※「BEPS」については、また別の機会で触れたいと思います。
会計制度や税務制度も
過去は国ごとで対応していれば
それほど問題なかったのですが、
今後は海外子会社も含めグローバル単位で
対応が必要な時代になってきたということです。
日本におけるIFRS
2010年頃に日本でも
新しい国際的な会計基準であるIFRSを
導入していこうとする第1次ブームがありました。
私も当時、いくつかの会社で
IFRS案件を取りかかり始めていたころでしたが、
2011年の震災の影響もあり、
日本におけるIFRS導入ブームは下火になりました。
急にIFRSブームが来て、
各社が慌てて準備や対応を始めて、
ちょうど取り掛かり始めたころに急に
IFRSブーム(バブル?)が弾けた感じでした。
今思い返すと、2010年頃は、
まずIFRSの会計「ルール」を勉強すること、
そして、そのルール対応による影響度を把握すること、
に終始していたように思います。
日本の会計ルールとIFRSの会計ルールの違いを押さえて、
それをどのように対応していくべきかにフォーカスしていた感じです。
また、2010年頃は、
「IFRS導入で日本の経営はこう変わる!」
といったタイトルの記事も増えましたが、
どちらかというと、
法制度対応やITシステム変更、コンサル費用といった
少し形式的な影響度が注目されていた印象があります。
まだまだ日本におけるIFRS関連情報も乏しく、
いろいろな人がいろいろなことを提言していた時代です。
IFRSを導入することで
グループ経営管理に役立てようとする
プラス思考の話題もありましたが、
実務上では、どちらかというと、
「経営実務におけるマイナスの影響がどれくらいあるのか?」
といったことを多くの経営者は
気にされていたように思います。
これからのIFRS
一時はブームが去った
日本のおけるIFRS導入の動きですが、
また最近少しずつ導入ブームが出てきた印象です。
(上場会社や上場を目指す会社がメインですが)
今は、当時よりIFRSに関する情報も増え、
専門家を含め勉強の方も進み、
地に足の着いた議論や対応になってきている気がします。
私自身は、最近は、
昔のように「IFRSコンサルティング」を積極的にやる、
というスタンスではなくなりました。
興味が無くなったというわけではありませんし、
業務上、どうしても必要になる場面はあります。
ただ、どちらかというと、
昔よりは、冷静にIFRSに向き合い、
良い意味でIFRSの活用方法を考えるようになってきました。
2010年頃は、
経営のためというよりは、
法制度対応のために仕方なくIFRS導入を目指す会社を
支援するような印象の業務でした。
私の中でも、当時は、
「IFRS導入による管理会計制度の構築」
という視点について理屈では理解できても、
実務上はやはりピンと来ていませんでした。
一方で、今はということ、
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IFRSをグローバル経営管理の一環として
連結グループ経営管理に活用できるのではないか?
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と思えるようになってきました。
このように思えるように変わっただけでも、
私自身のなかでのIFRSに対する見方が、
マイナス思考ではなく、プラス思考に変わった気がします。
具体的には
それでは、IFRSをどのようにして
グループ経営管理に利用していけばよいのでしょうか?
あくまで私の勝手な思いではありますが、
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①IFRSを活用して「コミュニケーションプロセス」を作る
②IFRSを活用してグループ内の「業務標準化」にチャレンジする
③IFRSを活用して「業績評価の公平性」を担保・アピールする
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といった点を挙げてみたいと思います。
①IFRSを活用して「コミュニケーションプロセス」を作る
慣習や文化、言語が異なる海外子会社と
コミュニケーションを上手くとれるかどうかは、
グループ経営のうえでも重要な点です。
一般的には、
親会社が子会社に指示を出し過ぎてしまい、
両者の間にギャップが生じてしまいがちなグループ経営の現場において、
海外子会社に対しても「日本」のやり方を押し付けてしまい、
なかなか上手くいかない現場も見かけます。
そのようななかで、IFRSはどちらかというと、
海外の方が導入に先行している場合もあったり、
基準(ルール)自体が英語で書かれていたりしていることもあり、
日本の親会社側が海外子会社に歩み寄らないといけない場面が増えてきます。
個人的には、このような
親会社が子会社に歩み寄る姿勢は、
結構重要だと思っていまして、
その点で「IFRS導入」は有効なツールになるのではないか、
と感じています。
IFRSという分かりやすい目標を
グループ内のコミュニケーションツールとして活用することで、
海外子会社との間でも
良いコミュニケーションプロセスを作れるのではないか、
という思いです。
②グループ内の業務標準化にチャレンジする
グループ経営において、
グループ内の業務を標準化していくことは、
1つの理想形だと思います。
ただ、グループ内の業務の標準化といっても、
掛け声だけでは漠然としていて、
どこから、どのように進めていけばよいか
意外と悩むものです。
そのようななかで「IFRS導入」という目標を掲げることで、
・勘定科目に見直し
・業務フローの見直し
・システムの見直し
・データの作り方
といった点を、
日本の親会社と海外子会社が一体になり
現状確認したり、今後の目指すべき姿を考えたりする機会を
積極的に作ることができます。
その意味では、
グループの業務改革を進めるための
積極的な機会としてIFRSを上手く利用できれば、
一石二鳥という感じでしょうか。
③業績評価の公平性を担保・アピールする
組織は人が集まり、
協力し合うことで成り立っています。
グループ経営の場合には、
その組織が、複数の会社にまたがったり、
複数の国をまたがったりすることになります。
このような多種多様な人材が
モチベーションを維持しながら、活躍していくためには、
やはり、きちんと「評価」してあげられる仕組みを整備しておくことは
経営者として重要な仕事だと思います。
そして、
この「人材評価」をきちんと運用していくためには、
各社員の業績を客観的なモノサシで
公平に評価する仕組みが欠かせません。
そのためには、
グローバル規模で統一の「モノサシ」を用意しておくことは
重要なことだと思いますが、
そこで「IFRS」を上手く活用することで、
海外子会社においても納得感が出てくるような気がします。
以上、私見ではありますが、いくつかの視点で、
「IFRS導入のメリット」
について書かせていただきました。
理想通りに行くことばかりではありませんが、
ポイントは、
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せっかくなので、IFRSを、
グローバルなグループ経営管理の「ツール」として
積極的に活用していく
————————–
という考えで、
IFRSと向き合ってもよいのではないか、
ということです。
IFRSを適用した「結果」も当然重要ですが、
グローバルグループ経営管理の「プロセス」「ツール」としてのIFRS活用、
という視点についても意識していただければと思う次第です。