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【グループ税制】企業組織再編における「適格」と「非適格」①

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企業再編における専門知識

グループ経営を続けていくなかでは、
どうしても「企業組織再編」は避けられません。

前向きなもの、後ろ向きなもの、
そのときどきでいろいろな決断を迫られるものですが、
その組織再編のイメージを形にする際には、
いろいろな手法があるものです。

 

用語としては、たとえば、
・合併
・会社分割
・株式交換
・株式移転
・事業譲渡
等々。

 

なんとなくわかるようで、
詳細は専門的でわかりづらい用語ばかりです。

専門的な分野は
管理部門の担当者に任せたり、
専門家を頼ったりすればよいとは思いますが、
グループ経営者であれば、
最低限の知識くらいは身につけておきたいところです。

なぜならば、
それによって財務上の影響も
全く異なってしまうため、
経営者としても重要事項だからです。

 

そこで今回は、
代表的な税務専門用語として、
「適格」「非適格」
という用語の意味を
本当に簡単にではありますが、
お伝えしたいと思います。

 

ちなみに、
細かな例外や注意点等を意識し過ぎると
注釈ばかりの説明になり、
逆に意味不明になると思いますので、
ここではざっくりイメージをつかんでもらうことを重視して、
お伝えできればと考えています。

「適格」「非適格」って?

早速ですが、
「適格」とか「非適格」といった
税務専門用語を耳にされたことはありますでしょうか?

これは税務専門用語としての
「適格」「不適格」という表現で、
いわゆる一般用語としての「適格」の意味とは、
少しニュアンスが異なると言えます。

 

なんとなく、

・適格=良いこと
・非適格=悪いこと

と感じられるかもしれません。

 

但し、税務専門用語としては、
必ずしも

・適格=良いこと
・非適格=悪いこと

とは言い切れません。

 

そのときの会社の状況によっては、

・適格=悪いこと
・非適格=良いこと

になるケースもあります。

 

これだけでは、
何のことがさっぱりわかないかもしれませんので、
グループ組織再編における「適格」「非適格」という
専門用語についてもう少し説明をしていきたいと思います。

設例

数値を使って説明した方が
イメージが湧きやすいと思いますので、
少し設例を使って説明をさせていただきます。

□設例
——————————————–
・A社とB社が合併することにします。
・A社が存続する会社、B社が吸収される会社とします。
・A社の資産・負債は以下の通りです。
 資産:簿価1,000(時価1,200)
 負債:簿価400(時価400)
・B社の資産・負債は以下の通りです。
 資産:簿価300(時価400)
 負債:簿価200(時価200)
——————————————–

 

合併については、
別途「【用語】合併」でも説明していますが、
要は、2つの会社が1つになる手法です。

1つの会社になるにあたっては、
それぞれの会社の資産・負債も
当然、合算して1つになります。

 

上記の設例を前提とすると、
A社とB社の資産・負債が合算されることになります。

その際に、
合算される資産・負債の金額として、
簿価(帳簿価額)を使うのか、
時価を使うのか。

「適格」or「非適格」で
この金額の考え方が変わってきます。

「非適格」とは?

まず税務専門用語としての
「非適格」の方から説明をさせていただきます。

 

実は、「非適格」というと、
少し悪い意味や規則に従っていないような
印象を持たれるかもしれませんが、
税務専門用語としての「非適格」は
決してそういうことではありません。

それどころか、どちらかというと、
税務上の概念としては、
この「非適格」の方が通常・原則、
といった意味を持っています。

 

この通常・原則である「非適格」の考え方は、

—————————————-
組織再編によって資産・負債が移転するときは、
資産・負債の「時価」で移転する
—————————————-

ということです。

 

先ほどの合併の設例をもとに考えると、

————————————–
組織再編(=合併)によって、
B社の資産・負債がA社に移転するときには、
B社の資産・負債を「時価」で移転する
 ⇒B社の資産の時価:400
 ⇒B社の負債の時価:200
————————————–

と考えるのが「非適格合併」となります。

 

通常、資産を譲渡したりするときは、
その「市場価格(時価)」で取引が成立すると思います。
組織再編で資産・負債がまるごと移転する場合でも、
基本的な発想は同様ということです。

 

合併後のA社の資産・負債のイメージは、
以下の通りとなります。

・資産=A社簿価1,000+B社時価400=1,400
・負債=A社簿価400+B社時価200=600

 

なお、これによる具体的な影響の説明については、
別の機会に譲りたいと思います。

まずは「非適格」のイメージを
つかんでいただくことを、
今回の第1目的としたいと思います。

「適格」とは?

それでは、次に「適格」の方を
確認してみたいと思います。

 

ずばり「非適格」の逆になります。

つまり、合併をしたりするときは
通常は「非適格」の概念が原則で、
受け入れる資産・負債は「時価」で受入れます。

いわゆる市場取引と一緒です。

 

一方で、
ある一定の要件を満たした場合には、
「適格」という扱いになり、
合併等で受け入れる資産・負債は
「時価」ではなく「簿価」で受入れることになります。

 

つまり、「適格」の要件を満たした場合には、

—————————————-
組織再編によって資産・負債が移転するときは、
資産・負債の「簿価」で移転する
—————————————-

ということです。

 

先ほどの合併の設例をもとに考えると、

————————————–
組織再編(=合併)によって、
B社の資産・負債がA社に移転するときには、
B社の資産・負債を「簿価」で移転する
 ⇒B社の資産の簿価:300
 ⇒B社の負債の簿価:200
————————————–

と考えるのが「適格合併」となります。

 

合併後のA社の資産・負債のイメージは、
以下の通りとなります。

・資産=A社簿価1,000+B社簿価300=1,300
・負債=A社簿価400+B社簿価200=600

 

とりあえず、
今回の「適格」の説明はここまでにしておきます。

どのような要件を満たせば「適格」になるのかは、
別途、次の機会にお伝えできればと思います。

補足

上記をご確認いただくと、
もしかしたら、

「『適格』と『非適格』で
受け入れる資産・負債の金額が少し変わるくらいで、
両者の間にあまり違いが生じないのでは?」

と思われたかもしれません。

 

これは、会社の状況により何とも言えません。
「適格」or「非適格」のどちらになるかで、
とても影響がある場合もありますし、
それほど影響が無い場合もあると思います。

 

いずれにしても、
このような組織再編がある場合に、
「適格」の場合と「非適格」の場合で
自社にとって、どのような影響の違いがあるかを検討して、
事前に対策をとることが重要です。

一般的には、
「『適格』扱いになるようにしたい」
というニーズの方が多い気もしますが、
必ずしも「適格」の方が有利になると限りません。

 

また、
たまに適格要件については、
「できる(容認)規定」のように誤解をされる場合もありますが、
「適格」か「非適格」かは、
選択できるものではありません。

適格要件を満たす場合には
必ず「適格」として処理をする必要があります。

 

つまり、

「適格要件を満たすけど、
『非適格』で処理をした方が有利だから
『非適格』を選択しよう」

というわけにはいかない、
ということです。

 

最後にまとめますと、今回はまずは、
ざっくり、以下のようなポイントだけでも、
頭の片隅に入れておいていただければと思います。

—————————————-
●組織再編の場合には「適格」と「非適格」がある
●どちらになるかは選択制ではなく、要件を満たすかどうかで自動的に決まる
●「適格の場合=簿価」
●「非適格の場合=時価」
—————————————-

今後、「適格」「非適格」による
財務的な影響についても、
お伝えしていきたいと考えています。

参考

【グループ税制】企業組織再編における「適格」と「非適格」②

【グループ税制】企業組織再編における「適格」と「非適格」③

★★★★★★★
その「組織再編」は
「適格」ですか?それとも「非適格」ですか?
★★★★★★★

 

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