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【考察】HD化前後の財務諸表(不二製油グループ本社株式会社)

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※不二製油グループ本社株式会社の「平成28年3月期 決算短信」より情報を抜粋・加工して整理しております。

不二製油グループ本社のホールディングス化

不二製油グループ本社は、
平成27年10月1日
ホールディングス化しています。

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■ホールディングス化の背景・目的

以下の記事にまとめていますので、
詳細はそちらをご参照くださいませ。

●関連記事:「【事例】不二製油 株式会社

■ホールディングカンパニーの役割

・持株会社体制への移行方法は、新設分割により
「油脂」「製菓・製パン素材」「大豆たん白」の
国内事業を担う事業会社(新設会社)を新設し、
当該事業を当該新設会社へ分割承継。

・親会社は持株会社になり、
「グループ戦略機能」「地域統括会社の管理機能」を担う。

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今回は、ホールディングス前後で
同社の財務諸表がどのように変化したか、
平成28年3月期の決算短信の情報をもとに
考察してみたいと思います。

貸借対照表はどうなったのか?

①流動資産

まず流動資産はどう変化しているでしょうか?

current asset(fuji)

現預金については、
借入金等とのバランスもありますので、
増減を単純比較するのは難しいですが、
顕著に変化が表れているのは、
・売上債権
・棚卸資産
といった主要業務に係る資産です。

 

ホールディングス化前は、
親会社の事業として、
「油脂」「製菓・製パ ン素材」「大豆たん白」
といった事業を行っていました。

一方でホールディングス化後は、
グループ戦略機能・地域統括会社の管理機能、
といったグループ経営管理事業をする
ホールディングカンパニーに変わっているため、
主要事業に係る「売上債権」「棚卸資産」といった項目は、
無くなっているということでしょう。

 

②固定資産

次に固定資産を見てみたいと思います。

fixed asset(fuji)

有形固定資産については、
「土地」以外は基本的には、
ホールディングカンパニーからは
無くなっているようです。

 

ちなみに、
平成27年3月期の同社の
有価証券報告書「設備の状況」を確認してみると、
以下のような記載がありました。

assets(fuji)

これを見る限り、
有形固定資産のほとんどは、
生産設備だったことがわかります。

 

つまり、
ホールディングス化後は、
各事業子会社で生産業務が行われるため、
生産設備である固定資産については、
各事業子会社の資産として計上されるべきものになります。

そのため、
持株会社の固定資産が無くなるのは、
自然な流れだと思います。

 

但し、「土地」だけは、
事業子会社へ分割をしていないようです。

その理由はわかりませんが、
土地特有の問題で分割が難しかったのか、
もしくは戦略的にホールディングカンパニーに残して、
土地の賃料収入を受け取る形をデザインしたのか。

 

いずれにしても、
ほとんどの固定資産は
ホールディングカンパニーには残っていません。

 

③負債

次に負債側を見てみたいと思います。

liabilities(fuji)

こちらも資産側と基本的に同様で、
主要事業に係る負債は、資産と一緒に
各事業子会社へ分割された印象です。

 

そして残った負債の主なものは、
有利子負債(借入金・社債)といった項目です。

ホールディングカンパニーが
グループ・キャッシュ・マネジメントをしていると思いますので、
これは自然な形と言えるでしょう。

 

④純資産

B/Sの最後として純資産の部です。

net assets(fuji)

これはご覧の通りで、
ほとんど変化がありません。

会社分割をしても、
純資産には基本的には影響しない、
ということが見てとれます。

損益計算書はどうなったのか?

今回の事例は、
事業年度のちょうど真ん中で
ホールディングス化した事例となります。

そのため、
平成28年3月期の
親会社(単体決算)の損益数値は、

・上半期:事業会社
・下半期:持株会社

の特性が合計された数値なっています。

①売上高・営業収益

従来は「売上高」だけの科目でしたが、
ホールディングス化した後は「営業収益」という項目が
登場しました。

sales(fuji)

ここから読み取れるのは、

・売上高:事業会社時代の収益
・営業収益:持株会社後の収益

という使い分けです。

 

事業会社としての営業は、
前年の半分になっていることから、
売上高は前年の約半額になっています。

一方で、
新たに登場した「営業収益」としては、

・関係会社受取配当金
・グループ運営収入
・その他の営業収益

の3つに分けられています。

 

バランスで言うと、
配当金による収益が一番大きいようです。

 

そして、営業収益のうち、
一番読み取りづらいのが「グループ運営収入」です。

子会社から業務受託料かもしれませんし、
経営指導料かもしれません。

今後のホールディングスカンパニーとしての
収益源も多様化する可能性もあると思いますので、
このような包括的な意味を持つ科目を
採用したのではないでしょうか。

 

②売上原価

売上に直接対応する費用です。

salescost(fuji)

従来は「売上原価」として金額の記載がありました。
一方で、ホールディングス化後については、
今回の損益計算書からだけでは断言できませんが、
前期との金額のバランスを考えると、
「売上原価」としては金額計上が無い可能性が高いです。

つまり、ホールディングス化によって

・売上高⇒営業収益
・売上原価⇒項目なし

というように変わったと見受けられます。

 

③販管費

こちらは以下の通りとなっています。

sga(fuji)

おそらくではありますが、
ホールディングス化によって、

・販管費⇒営業費用

に変わったものと考えられます。

 

この結果として、
親会社の本業のもうけを示す営業利益は、
“85億円⇒63億円”
と少し減少しているようです。

一方で、
グループ全体の連結ベースでみた営業利益
“142億円⇒168億円”
と増加しています。

 

グループ全体では堅調な業績であることから、
グループ組織デザインの変更による
各グループ会社の損益構造が変化し、
親会社の利益は減少した、
と見るのが自然でしょう。

その他

上記以外にもいくつか気づく点はあります。

たとえば、
親会社の税金負担率が、

・平成27年3月期:29.5%
・平成28年3月期:20.8%

と変化(低下)しています。

 

これは、
グループ会社からの配当金が
増えたことによる影響と思われます。

グループ会社からの配当金は、
基本的には税金がかからないという
特性がありますので。

 

その他いろいろと
見えてくる面があると思いますが、
決算短信では情報が限られていることから、
私の推測による考察は、
このあたりで終わりたいと思います。

 

ホールディングス化によって
何を目指すかどうかという定性的な側面だけでなく、
このような定量的な数値(財務諸表)をベースに
ホールディングス化の影響を考えることも、
いろいろと気づきを与えてくれるのではないか、
と思います。

ホールディングス化に取り組む場合には、
定性的影響、定量的影響の両方から
シミュレーションをしてみていただければと思います。

★★★★★★★
ホールディングス化後の
財務諸表のイメージはできていますか?
★★★★★★★