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Vol.206 なぜM&Aは上手くいかないのか?

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M&Aは失敗確率が高い?

最近はM&A市場が活況です。
日本のマーケットが縮小しているなかでは、
どうしてもM&Aが増えていく傾向があるのだと思います。

 

このようなM&A市場では、
どうしても競争が過熱化し、
成立するM&A価格が高騰しがちです。

結果として、リスクも高くなりますので、
経営者としては悩ましい問題だと思いますが、
M&A価格の高低にかかわらず、
一般的にM&Aの結果が最終的に成功と言えるような事例は多いとは言えません。

 

何をもって成功・失敗と定義するかは難しいところですが、
M&Aの成功事例を聞く機会が圧倒的に少ないことを考えると、
やはり失敗事例が多いのだと思います。

これだけ過熱しているM&Aです。
各社ともM&Aの経験も積んできていると思いますが、
なぜ上手くいかないケースが多いのでしょうか?

 

M&Aとデューデリ

M&Aの際には、
一般的にデュー・デリジェンス(デューデリ)を行います。
事前調査です。

いろいろな分野からの調査が考えられますが、
案件の規模やリスクの度合いに応じて、
このデュー・デリジェンスの範囲や精度は変わってきます。

 

オーソドックスなところとしては、
・財務デューデリ
・税務デューデリ
・法務デューデリ
といったようなところでしょうか。

外部の専門家に依頼をするケースや自社で完結するケース、
案件ごとに様々だと思いますが、
上場会社になると外部の会計士・弁護士に
デューデリを依頼するケースが多いのではないかと思います。

 

専門家に依頼をすれば、
最低限のリスクヘッジをできる可能性も高いですし、
貴重なアドバイスももらえるかもしれません。

M&Aはスポットかつ金額も大きくなりがちなので、
報酬を支払ってでも専門家へ依頼する意義は多分にあると思います。

 

但し、このような財務・税務・法務といった
いわゆる専門的な分野の調査だけで
M&Aが上手くいくのであれば苦労はしません。
あくまで最低限のリスクヘッジ的な意味が強いと思います。

 

M&A取引後のイメージ

ビジネスは継続するものです。
M&A取引が成立したら終わりというわけではなく、
逆に、取引成立でやっとスタートを切る段階になるのです。

そのため、本当の意味で重要な事前調査は、
やはり「ビジネスデューデリ」と言えるでしょう。

 

つまり、M&A成立後のビジネスを念頭に
事前にビジネスの可能性やシナジー効果、ビジネスリスク等、
の調査を実施するデューデリです。

 

多くのM&Aの現場では、
この領域を軽視しているような印象があります。

軽視といっても、
「何も考えていない」というわけではなく、
「具体的に検討していない」という意味です。

なんとなくのイメージや直感で留めている印象が強く、
具体的に数値におとして検討したり、地道な市場調査をしたり
という活動が不足しているような気がします。

 

このビジネスデューデリの分野について
サービスを提供している専門家もいますが、
個人的には、この分野こそ、外部に委託せずに、
経営者・会社が率先して実施すべき事前調査だと思っています。

ここを具体的に見える化して、
M&A後の経営マネジメントの絵を
経営者として具体的に描けないようであれば、
M&Aが成功の道は遠のいてしまうものだと思います。

 

また、このなかでもとくに重要だと感じるのは、

—————————–
M&A先企業の企業文化を変えたり、
自社の企業文化と融合したりできるかどうか
—————————–

という点の事前検討だと思います。

 

企業文化・社員の価値観に関与できるかどうか?

多くのM&A失敗の事例のなかで
挙げられるテーマは「企業文化の違い」という点です。

企業文化といっても抽象的過ぎるので、
私個人の感覚で表現を置き換えると
「社員の標準的な価値観」
といった感じでしょうか。

 

M&Aを成功に導くためには、
すでに存在する「社員の価値観」を変えたり、
その結果として「社員の行動」を変えたりすることが
どうしても必要な場面があるはずです。

 

ただ、ここがやはり難しいテーマです。

すでに出来上がっている社員の価値観を変えることは、
どれだけ優秀な経営者でも容易ではないことでしょう。
なぜなら、自社での過去の成功体験が
上手く転用できないケースも出てきますので。

それぞれの現場のことを理解し、
現場によって最適な方法を見つけ出しながら、
企業文化(≒社員の価値観)に関与していく必要があるのだと思います。

 

但し、この点についてデューデリ時点で調査するのは
実務的な問題(制約)があります。

M&Aの現場では、
事前調査時においてもそれほど時間的余裕がないため、
M&A先の企業文化や社員の価値観を事前に調査できるケースは稀だという
現実的な制約がある点です。

さらに、
社員には内緒でM&Aのための調査が行われることも多いため、
現場社員にヒアリングができる機会はない中で、
企業文化・社員の価値観を事前に理解していくことが本当に可能なのか、
という問題もあります。

 

そう考えると、
M&Aを結果として成功に導くためには、

————————
企業文化・社員の価値観を変えたり、
融合していけるような会社であるかどうか、
を事前に判断できる仕組み
————————-

を事前に構築しておく必要があるということです。

 

どれだけ魅力的なM&A先と思っても、
すでに存在する企業文化、社員の価値観を変えることが難しそうな会社の場合には、
その時点でM&Aの失敗確率が高まると思いますので、
取引から撤退した方が賢明ともいえます。

ただでさえ難しいM&A後のマネジメントです。

前提となる会社同士の相性であったり、
経営者の価値観との相性にそもそもギャップがあるのであれば、
失敗確率は相当高くなるはずです。

 

経験豊富で優秀な経営者でも
すべての会社の企業文化、あらゆる人材の価値観を
短期間で変えられるものでもありません。

そのため、企業文化の改革に耐えうる会社なのかを
事前にスクリーニングできる「仕組み」を構築できるかどうかが
今後のグループ経営においては重要なポイントになっていくと思います。
(この点は決して外部へ委託するような業務ではないと思います。)

 

M&Aは、その取引価格の大小にかかわらず、
相当なエネルギーと時間を使うため、
失敗した時のダメージが意外と大きいものです。
初期投資を回収できなくなる以上に、損切りできず追加の損失が膨らんだり、
順調な本業へ間接的に悪影響を及ぼしたりしがちです。

そのため、
M&Aこそ「成功確率の高い案件」に絞って
取り組んでいかれるのがよいのではないか、
と思う次第です。

 

おそらくM&Aで成功し続けている会社は、
自社の能力で成功させられる案件に絞って取り組んでいるからこそ、
成功確率を上げられているような気がします。

 

★★★★★★★
M&Aにバクチは必要なし。
とことん成功確率の高い案件にだけ
取り組んでいますか?
★★★★★★★

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