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Vol.145 本当にその子会社の経営判断は正しいですか?

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最近、何かと世間を賑わしている東芝ですが、
先日「減損会計」について、
新たにニュースになっていました。

東芝の子会社(米国原発事業大手)の
ウェスチングハウス社で計上した「減損損失」が
東芝「連結決算」数値に反映されていない、
といったような内容です。

Vol.6

減損会計とは、
「固定資産等を購入した後に、
事業の採算が悪くなった場合には、
固定資産の価値が無いものとして、
評価減をする会計独特の処理」
です。

端的にいうと、
固定資産投資が失敗であったことを、
損益計算書に「減損損失」として表現する
考え方です。

事業における投資に失敗はつきものです。
百発百中というわけにはいきません。

ただ、上場会社の場合には、
投資が失敗だったことがわかった段階で、
タイムリーに財務諸表に
その旨を反映させることが求められます。

 

今回東芝で問題視をされた内容は、

——————————————————————-
子会社の決算書⇒「減損損失」を計上
親会社の連結決算書⇒上記の「減損損失」を取り消している
——————————————————————-

という点です。

要は、
子会社では「投資は失敗」と判断しているのに、
親会社では「投資はまだ失敗していない」と
判断していることになります。

Vol.15(3)

 

連結決算書を作る際には、
グループ会社全体の決算書を合算します。

そのため、基本的には
「子会社の決算書」で計上した損失は、
そのまま「連結決算書」にも合算され、
損失として計上されます。

 

但し、今回の東芝の場合、
子会社で計上した約1,600億円の損失を
東芝の「連結決算書」においては、
計上していない(=取消している)ということが、
ニュースになったということです。

これに対して、東芝の説明は、

—————————————————-
子会社単体で見た場合には、
採算が悪いと判断された事業も、
連結グループ全体で見た場合には、
その事業は採算がとれていると判断されたので、
子会社で計上した損失を取り消した
—————————————————-

といった趣旨のものでした。

Vol.56(3)

今回、東芝の件を採り上げたのは、
東芝の会計処理を説明したいのではなく、
連結グループ経営の本質を理解するうえで
とても有益な情報だと思ったからです。

というのも、
東芝の会計処理が正しいかどうかは、
外部からはわかりませんが、

—————————————————-
連結グループ経営における
経営判断プロセスとしては、
東芝はあるべきプロセスを踏んでいる
—————————————————-

からです。

 

連結グループ経営は、
「グループ全体最適」を目指す経営であり、
「グループ各社最適」を目指す経営ではありません。

連結グループ経営の中では、
グループ将来のための先行投資として
戦略的赤字子会社が存在するかもしれません。

また、
グループバリューチェーンのなかで
どうしても収益が出づらい部分を担っている
グループ会社があるかもしれません。

 

但し、
連結グループ経営においては、
これはある意味「想定内」と言えます。

あくまで
グループ全体最適を目指すのが
連結グループ経営です。

赤字の子会社や赤字事業が
部分的に存在することだけをもって
「失敗事業」とは言い切れないのです。

Vol.63(1)

 

このような前提に立つと、
今回の東芝の判断プロセスとしては、
きちんとグループ全体で判断できる体制が
整備されているという評価も
できるのではないかと思います。

今回の東芝の事例でもわかるように
連結グループ経営における
「グループ全体最適による経営判断」
の必要性については、
ご理解いただけると思います。

 

ただ1つだけ実務上、
意識すべきポイントがあります。

それは何かというと、

———————————————————-
グループバリューチェーンを意識した
「グループ全体視点での事業採算」を
把握できる仕組みを構築できているかどうか
———————————————————-

という点です。

Vol.89(4)

 

グループ全体で経営判断することの
必要性自体は理解ができていても、
そのための「手段(仕組み)」が無ければ、
グループ全体最適な経営判断のしようがありません。

ただ単にグループ各社の決算書を合算したり、
連結決算書を作成するだけの作業では、
グループ全体最適な経営判断資料にはなってくれません。

 

つまり、
たんなる「連結決算」の作業ではなく、

—————————————————-
グループ経営管理で活用できる
「連結決算の仕組み」を構築しておくこと
—————————————————-

が求められる、ということです。

経営者としては、
是非意識しておいていただきポイントです。

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